老人介護のエピソード

 

(14) 紙パンツが災いの元に・・・

 これまでの転倒が頻尿に起因することは既に書いた。認知症も治り頭もしっかりしている親父にとって、ベッドや歩行中の尿失禁は大変恥ずかしい感覚のものである。本人の弁明によると、とりわけ大きい方に関しては便意が不明に問題があったようである。

覚醒中であっても、寝ていても、出た後で皮膚の湿りで感ずる程度で、肛門の随意筋である外括約筋のコントロールができないことである。自律神経でコントロールされている肛門の内括約筋でさえも、老化により適切なコントロール状態ではなさそうに思えた。加えて外括約筋のコントロールまでができないとなると、親父はベッド上の粗相や歩行中の不始末を少しでも減らし私に介護負担による迷惑をかけないようにと、涙ぐましい努力で意識的にトイレに行こうとするのである。その行動パターンはショートステイで滞在中も同じであった。

 私は多少の粗相はあっても、いつも本人が好むパンツ(100%綿で少し毛羽立った感じの柔らかネル生地の猿股=サルマタ)をはかせていた。一般では手に入らず「しまむら」に頼んでわざわざ取り寄せてもらっていた。トイレ行動の際には、いつも歩行中に転倒はしないか注意を払っていたことを親父は知っていた。

そこで、私は親父の気持ちを察し紙おむつや紙パンツの使用を提案してみたら、喜んで受け入れてくれた。しかし、それでもなお、親父は少しでも私の手を煩わすことに抵抗があったのと、自分でも思いっきりトイレで気持ちよく用が足したかったようである。

問題はこれまで自身の使用経験がなく、「紙」という認識に誤りがあったようである。お袋の介護の時は自分で処理していたのに忘れたのか、うっかりなのか。私はその責任までは追及しなかったし、ひと言の文句も言わなかったが、紙オムツをトイレに流してしまったから、さぁ大変なことになった。

 買い物から帰るや否や、親父がトイレから呼び止める。なんと!トイレの便器から水が溢れ出し、前に書いた約90cm×180cmの広さの室内は深さ5cmのプールになっている。廊下にはまだ全く漏れていない。大工の仕事の良さも証明された感じだが、親父はその水中で立ちすくみ下半身裸で震えている。

すぐに常備してある掃除用火鋏で紙オムツを抜き取ろうとするものの、かなりの水圧でなかなか取れない。太めの針金を補助に使いやっと抜き取れた。過日張り替えたばかりの絨毯も当然取りなかなければならず、また余分な仕事が増えた。水はもはや汲み出せる程でもなく、拭き取るには余りに多過ぎるので床に小さな穴を開けて排水した。

私の場合は雨に濡れずに行ける屋外にもう一つトイレがあるので心配はないが、濡れたままでは次にトイレを使う親父が困る。仕方がないので、応急的に夜を過ごすために厚手のビニールシートを敷き、足を置く部分には木のブロックを置いておいた。

夜中にいつもの緊急通報装置が鳴る! 予想ができなかったわけではないが予感が的中! 親父がビニールシートで滑って転んでいる。

ビニールが移動し、パジャマまでまたずぶ濡れになっている。幸いに怪我はなかったもの、親父にとっても私にとっても散々な日である。

 度重なる転倒、歩行器の使用、紙パンツや紙オムツの使用など、徐々に老化の程度が進みつつある。それでも、やはり本人は(当然だが)布製のパンツの方を好むので、できるだけ紙オムツや紙パンツは使わないようにした。このところの連続する尿失禁や転倒事件から、親父の部屋の出口に人の移動を監視するための遠赤外線センサーを取り付け、警報情報を私の居室に鳴らすように追加した。


出始めたら止まらない便、48時間でパンツ交換32回!

 

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