14. 食品の冷凍と解凍

  一般の食品には、水分が含まれている。乾燥品と思われる豆や穀類でも重量の 10~20 %、主食の米も最近は品種改良も進み軟質米と硬質米の区分がなくなりつつあるが、概ね 13.5~15.5 %程度である。野菜や果物では 80~90 %、魚肉類ではヒトとほぼ同じ70 %前後の水分を持つ。食品の保存に関しては既に水分活性の話をした。冷蔵して温度を下げれば、カビや菌類はその増殖活動が鈍くなる。さらに凍結すれば、自由水分も減りさらに活動できなくなって、長期が可能になることは容易に想像できるだろう。

しかし、一般の冷蔵庫の冷凍室では、凍結対象物の表面から徐々に凍っていく。早い話、食品の中に霜柱が成長していくわけだ。私たちは「針状結晶」と表現することもあるが、これが細胞膜を壊してしまう。そしてその氷が結晶する際に壊れた細胞内の水分を奪いながら成長するのである。

すると使用時に解凍した場合、できた結晶が溶けて、旨みや水分がベチャベチャ状態で流れ出てしまう。しかも、肝心な食品本体は、水分がなくなりパサパサになってしまう。業界用語ではこのチャベチャに流れ出た液体を「ドリップ」という。スーパーの店頭で、このドリップが滲(にじ)み出た状態の肉や魚を買っても決して美味しくない。

 そこで最近は冷蔵庫でも極めて短時間凍結可能な急速冷凍が可能なものが売り出されるようになった。この機能を使って急速冷凍をすれば、瞬間凍結ほど完璧とは言えないものの、上述のような問題は大幅に改善される。

業務用の場合は、液体窒素(-195.8℃)又は、液化炭酸ガス(-78.5℃)の低温液化ガスを吹き付けて瞬間的に凍らしている。これらの方法によれば、コシのある佐貫うどんを使ってアルミ鍋にセットした鍋焼きうどんも、そのままガスコンロで加熱して食べれば食感を損なうことがない。他の肉や野菜でも解凍した時にドリップが出るようなことは殆どない。

テレビで金魚を液体酸素(-183℃)の中に落とし、カチカチの状態になったものを再び水中に戻すと元気に泳ぎ始める。これと同じことをしているわけである。ヒトの精子や卵子も同様のことができるから、体外受精性が可能あることをご存知の筈だ。

 何故そんなことが可能なのか、実は、全体を均一に凍らせ、氷の結晶が成長しないように短時間で凍らせているからである。つまり、細胞膜を壊していないのである。氷が凍る時には、小さな氷のかけらや何らかの不純物を核にして、その周辺に水分子がくっつき氷が大きく成長していく。

では、そのような核がない場合はどうだろうか。温度を下げても水は氷になれず、氷点下(0℃以下)でも水のままの「過冷却水」状態ができる。
このHPの裏ワザシリーズで紹介している炭酸飲料のシャーベットづくりでは、この原理を応用したものである。もちろん、ガス抜きをするので、その潜熱も助力している。

この状態で氷のかけらを投げ込んだり、何らかのショックを与えると一瞬に凍ってしまう。ではその時の氷はどのようになっているのか。氷は大きく育った結晶ではなく、微小な氷の粒の集まりに過ぎないので、細胞膜を傷つけることはないのである。これを解凍しても水分子は元の位置のままである。

 さて、凍結品の解凍方法だが調理の方法によって異なる。原則的に生食で食べるものは、冷蔵庫内での自然解凍がよい。しかし、一般的に冷蔵庫内の温度では、時間がかかってしまう。刺身などの場合、常温で水に氷を入れた中にラップで包んだままの氷温解凍が良い。短時間に一気に解凍したい場合は、電子レンジの解凍モードを使うのが良い。

ご存知のように電子レンジの原理は、電磁波(マイクロウエーブ)の周波数 2.45GHz で水分子を共振させ、その運動エネルギーで対象物を加熱するものである。これを連続して運転すると通常の加熱になってしまう。だから、必ずある一定のインターバルをもって運転・停止を繰り返すように設計してある。

解凍物が加熱して食べるものの場合、殆どそのまま、例えば魚はそのまま焼く、パンはそのままオーブンレンジ又は電子レンジへ入れる。野菜だって切断などの加工が必要でないものは、そのまま鍋に入れる。但し、主婦なら誰でもご存じだろうが、焼き魚は必ず網が十分熱くなってからネットや格子に載せないと、身が網にくっついて取れにくくなるから注意が必要である

 急速凍結機能を持たない冷蔵庫をお持ちの家庭では、「うどん」のようなでんぷん質の密なものや蒟蒻、豆腐の類は凍結しないことである。ご飯程度のデンプン類、砂糖が多く入った煮豆、あんこ、ジャム、アルコール(一般的にエチルアルコール:飲用、氷点はー114℃)を多く含むものは全く問題はない。

野菜は特別に食感を気にしないものであれば、1回の使用量ごとにラップ又はPP(ポリプロピレン)袋に入れて冷凍すればよい。なお、野菜は必ずブランチング(次回投稿予定)してから凍結するのが原則である。

[余談] 電子レンジが出てきたのでついでに、家庭用電子レンジにおいて使用周波数が異なる地域(50Hz又は60Hz)に引っ越しの場合、いずれかの周波数専用のものは部品交換又は内部切り替えが必要である。

2000年以降、インバータ制御式電子レンジのものが多く出回っているが、この場合は地域が変わってもそのまま使える。いま一度取り扱い説明書を確認しておくといいだろう。

 

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