13. パンを考える(その2)

 料理は理論であり化学である。

その理屈である基本を知ることによって、その応用範囲は広がり料理も上手になるものである。

パンの歴史は古く古代エジプト時代からあり、16世紀にポルトガルから日本へ伝来してすでに400年以上が経ち、その製法もどんどん進化してきたがその主役は小麦粉である。パンをつくる時の主原料は小麦粉(強力粉)である。その小麦粉にも全粒粉、胚芽、ライ麦などといろいろ種類がある。クッキーなどサクッとした感じのものや天ぷらの場合はグルテンの少ない薄力粉でを使うのが一般的である。

 材料にはそれぞれの特性があり、必ず必要なものがある。パンの種類も多様化し主食としての食パンをはじめとして、菓子パンにもいろんなバリエーションがある。フランスパンと称せられるものは、牛乳など乳製品や油脂類を入れないさっぱりした固いのが特徴と言っていい。

 ここでは一般的な食パンを例にとって、それが何故必要なのか材料の特性を考えてみよう。食パンは、通常大きな長方形の箱型の型に入れて焼いたパンのことであるが、箱の上方に空間をつくり、山型形状のもの(イギリスパン)もある。

ちなみに、食パンの場合「1斤」と称するには、農林水産省では340g以上と定めている。雑談はさておき、主な原料とその働きについて考えてみよう。

小麦粉

大きく分けてグルテンの多い順に強力粉、中力粉、薄力粉の種類がある。つまり、水を加えて捏(こ)ねた時に粘り気の強い順を意味しており、一番粘り気のあるものが強力粉でパンに利用される。

但し、パンの種類により中力粉(フランスパンなど)を加えたり、全粒粉、を使ったり選択されることもある。

グルテンはヒトの筋繊維に相当するようなもので、パンに伸展性を与える働きをし、これが少ないとパサパサしたものになってしまう。また、粉の種類により微妙な味や風味の出方が異なる。

塩は本稿の初めの部分で、「料理の味の決め手」であることはすでに述べた。従い、これを使わないパンは味がボケてしまう。

塩を入れる順番について、パンの場合は捏ねるので「料理のサシスセソ」に従わなくてもよいが、注意したいのはイースト菌と同時に入れないことである。

塩は微生物の活動を阻害する働きを持つことも保存料の項ですでに書いた。入れ過ぎると、発酵性が悪くなってしまう。ベーカーズパーセント(以下「ベーカーズ%」と表記)で 2 % までである。

砂糖

砂糖はイースト菌の餌(栄養分)として必須である。

種類は、好みの味を出すために何でもよいが、グラニュー糖や黒糖などは使い方に工夫が必要。多くの食品業界では上白糖が一般的である。

発酵を盛んにし同時にこんがりとした焼き色と、ほど良い香りをつける役目を持つ。ベーカーズ%は塩の 2 倍以上。ただ、これも使い過ぎると発酵を遅らせる原因となるのでベーカーズ% の10%まで。

素材の結合性やグルテンの粘りと弾力性を引き出すのに必須のものである。また、イースト菌の活動を阻害しないように、冷た過ぎても熱過ぎてもいけないことは前稿でお判り頂けたと思う。

べーカーズ%は 60~70 %である。牛乳又はスキムミルク+水で代用する場合のべーカーズ%は、乳製品の項を参照。

油脂類

これはグルテン膜を薄くしパンのきめを細かくする潤滑剤の役目をする。きめ細かなしっとりした食感(ボロボロになるのを防ぐ)をもたせ、生地の伸展性を滑らかに、且つパンの風味を良くする働きをする。入れ過ぎると、折角のイースト菌の働きを阻害(泡を消してしまう)するので、べーカーズ%で 5 % 前後程度がよい。

主に無塩バター、ショートニング、マーガリンが使われるが、マーガリンは先に述べたように健康上の理由からは、あまり好ましくない。普通の有塩バターを使う場合には、塩の量を減らすことを忘れないことである。

乳製品

乳製品の働きは、主に味や香り、栄養価を高めるために使われ、牛乳、スキムミルク、練乳、チーズがある。牛乳がないときはスキムミルクで代用し、ぬるま湯(40℃程度)で溶いて使う。

べーカーズ%は、水の1割増し程度(70~80%)である。

市販の牛乳は一応飲用として殺菌はしてあるが、発酵を妨げる(主成分だから仕方がないが…)カゼインや雑菌が含まれていることから、一度70℃まで加熱後40℃まで冷まして使う。

highdy はいつもスキンミルクを使っている。練乳やチースを使う場合は、砂糖や塩の量を加減するのが若干面倒である。

イースト菌

ドライイーストは、前稿で書いたようにアルコール発酵により旨みをだすとともに、炭酸ガスでふっくらと生地を膨らませる働きをする。

温度管理をしっかりしないと、上手く発酵できない。この菌の活動がよいほど、ふっくらしたパンができる。

ベーカーズ%は、1.5~3.0  % 程度だが、メーカーによって若干異なるので説明書をチェックするといいだろう。

最近、生イースト菌はあまり見かけないが、イースト菌は 4 ℃以下では殆ど活動しない。死滅するのはドライイーストと同じ 60 ℃以上である。生イースト菌のベーカーズ%は、ドライイーストの 2.5 倍程度を使用する。塩と一緒にしないことは上に述べた通り。

ロシアの本土は都内のロシアレストランで食べる黒パンのように、焼き上がったばかりのパンに酸味があるのは発酵のし過ぎである。保存料の項で酢は酒からつくる話をしたが、酸味は発生したアルコールから作られているのである。

 以上、最も基本的な製パン(食パン)の主原料とその働きについて述べたが、ホームベーカリーで焼く場合は、すべての材料を同時に入れてタイマーをセットするだけである。それでも結構まともなものができるので、あまり神経質に考えることはなく、先ずは各メーカーが添付した説明書で作ってみて、その後徐々に工夫すればよい。

highdy は今でこそ別宅にホームベーカーを所有しているが、それまでは一般の電気炊飯器のみで、発酵も焼き上げもしていた。焼き上がると炊飯同様に自動的に電源が切れ保温モードになるので、早めに取り出した方がよい。

小麦粉により微妙にレシピ―が変わることもあり、失敗した場合には「パン作りQ&A」が参考にするといいだろう。

[余談] 自宅ではオーブンはあってもホームベーカーはなく、紫陽花にお任せで highdy は一切パンに手を出さない。その紫陽花も、最近はパンもケーキも殆ど作らなくなった。理由は「買った方が安いから…」だそうだが、実際は正直なところ面倒なのだろう。健康面では自家製の方が安全なのだが…。でも、近所に良心的で安全な店があるので助かっている。そのお店が食パンのレシピ―を変えた時、それを指摘したら店主がびっくりしていた。まだ舌の感覚が落ちていない10年近く前のことである。

 

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