12. パンを考える(その1)

  街中で安いパンを売っている、食パン一斤 78 円なんて! でも、種明かしは簡単である。「ドライフード」を使っているから可能なのである。ドライフードを使えば、少ない原料で、早く大量のパンを、安くつくることができるからである。

そんなマジックがあるのか?

答えは「ある」が正解。では、イーストフードって、どんな曲者?

ドライイーストとドライフードの違い

 ドライイーストは、生イーストの保存性を高めるために、その水分を大部分除いたものである。 使用前に少量の砂糖を入れた約10倍量の温湯(40℃以下)の中に入れて、水分を吸収させれば発酵力を回復し、生イースト菌の状態に戻るものである。

ドライフードとは、フードというその名の通り、イーストが食べる餌で、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、リン酸塩など多数の合成添加物から4~5品目を混ぜてつくられる極めて毒性の強い化学物質である。中でも、塩化アンモニウムは毒性が強く、大量に摂取すると吐き気や嘔吐などを起こすこともある。そのため、日本ではパンの製造に限り認められている食品添加物である。

ドライフードは、化学物質なので発酵の度合いの予測ができるため、管理しやすく、機械製造に適し、品質が均質なパンを生産しやすい。 そのため短時間でパンを発酵させ、少ない原料でふっくらしたパンを一度に大量に生産できる。同じサイズなら天然酵母とイーストフードのパンの重さを測ると相当な違いが出る筈だ。つまり、イーストフードのパンは空気がたっぷりということ。

イースト菌について

 イースト(yeast)とは酵母のことでイースト菌とは酵母菌を意味する。パンの場合にブドウ酒や果実酒発酵で活躍するアルコール発酵菌の一種である。「天然酵母によるパン」というのは自然のものを人工的に増殖させた酵母菌を使うもので、天然のままという意味ではない。ドライイーストは人工的に増殖させた酵母の保存性をよくするために、その水分を取り除いたものである。

イーストは高温(35℃以上)で活動が活発になるが、熱に弱いのであまり高温では死に至る。製パンをされる方はよくご存じだと思うが、一次発酵は 26~30℃ 程度、だから加える水や牛乳(スキンミルクを使うこともある)の温度に注意が必要である。二次発酵はヨーグルト発酵と全く同じで 35~40℃ が適温だが、ヒトと同じで41~42℃以上では死に始め 60℃ で死滅する。従い、ニーダー(捏連機)やホームベーカリーなどの機械捏(こ)ね作業では、予めその温度上昇(大体5℃程度)を見込んで生地を仕立てないといけない。

 イーストは通常砂糖を餌として増殖し、時間をかけて発酵させるほど沢山のアルコール分を作り美味しいパンができる。が、時間が長過ぎても逆に炭酸ガスが災いして良くない。二次発酵の前に一旦炭酸ガスを追い出し、改めて増殖・発酵させる。パンを焼き始めると、どんどん膨らみあるところでそれが止まる。それは品温が 60℃ になり、酵母が死んだことを意味する。

 食パンの場合、ドライイーストはベーカーズパーセント(%)で2%程度である。ベーカーズパーセントとは、小麦粉(食パンは強力粉を使うが)の重量を100とした場合の他の材料の重量を比で表したもの。

例えば、300g の小麦粉を使う場合なら6g(300×0,02=6、つまり、小サジに2杯)ということ。

 また脱線するが、小麦粉の熟成適温は、大体 25~27℃ である。それ以上になると生地がダレてしまう。うどんを打った時に26度で熟成させるのはそのためである。ちなみに、人工栽培のシイタケでも種菌を植えた培養体(培地)は26℃を保って培養する。生物はイースト菌にしろヨーグルト菌にしろ、シイタケ菌にしろ、ヒトと似た環境のものが多い。ヒトのために生き、仲良く暮らしたいのだろうか。

 

[Back]        [Next]

 

食べ物のお話シーズ Top