第2回 ハッカ油で夏を快適に・・・

夏を涼しく過ごす化学

 人の生活は、科学と化学によって成り立っているともいえる。厳密な意味では化学も科学の中に含まれるが、身近なところでは料理の工夫や味付けにも化学が利用されている。

昔の方の知恵は実に素晴らしく教育らしい教育も受けていないのに、生物の特性や化学の知識を駆使した食物の調理・加工法・食べ方を伝授してくれている。それらの知識を活かしながら、一方で新しい知識を加えていけば、さらに豊かな生活が望めるのではなかろうか。

 というわけで、今回はその新しい工夫についての講義。「ハッカ(薄荷:日本語)」で、夏を快適に過ごすお話。

巷で大変な話題のエゴマと同様にシソ(紫蘇)科である。古代エジプト時代から数千年以上の歴史をもつ薬草で、日本でも約2000年近く前から栽培されてきたハーブの一種。ハーブ系は品種も多い。英語では「Mint ミント」スペインなどラテン語では「Mentha メンタ」という。(イタリア/スペイン語では「h」を発音しないのでホテルはオテル、ハロー!はアロー!になる。)

メントール」の語源もこれに由来するものと思われる。

ハッカ油

 ハッカ油は、主成分はメントール、他にメントンカルボンなど多数の微量成分からなる。

医薬品原料としは、日本薬局方(にほんやっきょくほう:厚生労働省内にホームページ)に定められた規格がある。香りや清涼感では優れるが、非常に苦く、刺激臭があることは皆様ご存知の通り。

そのハッカ油は、以下に述べるように多くの効果があり、その用途はとてつもなく広い。

参考リンクも紹介するので、是非チャレンジして頂きたい。

[注 意]

 スプレーを作る際には、必ず精製水を使うこと。一般の水はすべてダメである。アルコール(エタノール)を使うときは、薬局で用途を告げること。人体に危険なメタノールは使わないこと。小動物・虫除けにはアルコールを使わない。スプレーは100円ショップのものでも充分、たまに性能の良くないものもあるが・・・。

 なお、1滴というのは、測定器具(ビューレット、ピペットなど)や液体粘度によって異なるので一概には言えないが、局方(通則)や点眼薬では0.05mlのようなので、ご参考まで。

メントール

 アルコールの一種の有機化合物であるが、正しくは「2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール」というとても覚えられない名前がついている。種類も多く近年では化学的な合成も可能になっている。清涼感のあるハッカ臭を持つ揮発性の無色の結晶で、ハッカ油の重要な成分となっている。
用途にスペアミント系のガムや飴などの清涼菓子、歯磨き剤、整髪剤や化粧液、シップ剤などの医薬品と、非常にその用途は広くあらゆる製品原料の一部で活躍している。高温に弱く4244℃で昇華(ここではいきなり気体になるという意味)してしまう。

メントン

 こちらも天然に存在する有機化合物の一種で、メントールを利用して合成することもできる。爽やかなミントに似た特徴的な香りを活かし、香料や化粧品に利用されている。

カルボン

 上記の二つ同様ハッカの葉から抽出もできるが化学合成も可能である。

揮発性があり、常温常圧で無色の液体。芳香を有するため香料として使われている。

スプレー容器
スプレー容器

 ヒトの体には至るところには冷感を引き起こすTRPM8(トリップエムエイト)と呼ばれるタンパク質の受容体活性化チャネル(体のシグナル受信部で冷感センサー機能部)があり、それをメントールが刺激してひんやり感を知覚する。

ハッカ油の成分も濃すぎると清涼感を通り越し、寒さや痛さに変わってしまう。が、適度に調合して使うと様々な効用があることが知られている。以下にそのいくつかを挙げてみる。


1.胃腸の機能増進作用

 消化不良の改善にも役立ち、酒の飲み過ぎ、食べ過ぎ、油ものを食べた後にハーブティーを飲むと胸やけを防ぎ消化促進になる。つまり、胃腸の消化液分泌を促す作用がある。中国料理を食べた後にジャスミンティーが出るのも同じ効果であり、健康維持に寄与する。

2.リラックス作用

 ハーブ系の植物は、古くからアロマセラピー(香りにより心と体を健康にする療法)に利用されてきた。ハーブティーやハッカ油を垂らしたコーヒーなどもその一つ。柑橘類の皮に含まれる揮発性の油「リモネン」も含まれリラックス効果が大きい。

3.覚醒作用

 後述するが、麻酔作用があるものに覚醒作用もあるというのは…、少々疑問を感ずるようだが、すっきりした清涼感があるのでそのように表現されていると思う。ただ、大量に(濃く)使うと刺激性が強いのでその効果がある期待できることは確かで、眠気さましの「ガム」はその一例である。

4.殺菌・抗菌作用

 ハッカには殺菌・抗菌作用があり、その特徴を活かして古くから石鹸・シャンプー、歯磨き剤、肌の炎症や痛みの鎮静剤、虫刺されの治療薬として利用されている。但し、ハッカ油そのままでは刺激が強く、傷口や粘膜に塗るときは注意・工夫が必要である。

5.麻酔作用

エーテル、クロロホルムなど本来は全身麻酔薬だが、フェノール、メントール、キニーネなどは局所麻酔薬としても利用される。メントールでは、初めは知覚神経を刺激して疼痛を生ずるが後に麻痺を起こす。

6.解熱作用(怪しい!?)

 一般的に解熱作用もある言う記事を多く見るがあれはウソ貼るタイプの解熱シートが実に沢山市販されているが、痛みの鎮静効果はあっても実際の体温降下はないことが実証されているようである。ひんやり感を知覚できるので錯覚しているだけで、むしろ長時間貼っていたら逆効果と言ってもいい。

7.虫除け作用

 ハッカ油スプレーは人畜無害、食品にかかっても安全で、ゴキブリ、ムカデなどの虫除け、あるいはネズミ除けに効果があるそうだ。(highdy は研究をしていないが…)しかし、ネット上では物凄く効くという方とそうでないという方がおられる。実際に highdy が別宅で使っているネズミ除けスプレーには天然ハッカ油が大量に調合されていて効果もバッチリである。

恐らく効果のない方は、スプレー液の作り方が間違っているのだろう。それに虫除け・小動物除けの場合、濃度を濃く(水:ハッカ油=10:1以上)すること。水道水は残留塩素分があるのでダメ。アルコール(エタノール)を混ぜるのもダメである。その理由は、アルコールは親水性がいいので、早く乾いてしまい効果が薄れる。

一部の植物精油は、猫は分解能力を持たず危険という説があるがハッカ油はOK。それにこんな臭いのものは食べない。ただ一部のハッカ油でないミントアロマは危険(最悪死ぬ)なものもあるようだ。

8.消臭作用

 昔から臭いには臭いをもって制するという理論もある。臭気が存在してもヒトが不快感や嫌悪感を覚えなければ悪臭にはならない。

つまり、香料を用いて嗅感覚に影響を及ぼし不快感などを少しでも感じなくさせる感覚的方法である。ハッカ油は強い臭いを持つので、その意味での効果が大いに期待できる。

9.その他清涼感作用

 お風呂に入れたり、風邪予防のうがい液、顔・汗拭きタオルなどにも利用できる。安全で用途は無限に広がる。
そのうち、臭いに飽きちゃうでしょうね!